2024年9月27日金曜日

TDMA(時分割多重)デジタル音声無線DMRをアマチュア無線で使う

欧州を中心に業務用では広く使われているDMR方式の無線技術をアマチュア無線に適用し、インターネットに頼らない広域なデジタル音声サービス網を構築しようという試みに参画しています。

私は、日本のアマチュア無線V/UHF帯がとても賑わっていて、たくさんのハムがチャンネルにひしめき合っていた時代に、長年JARLレピータ委員を務めていました。当時、次々と誕生するFMレピータ同士が、同一周波数をシェアせざるを得なく、結果的にダブルアクセスの問題が各地で発生しました。異なるTone周波数を使うという方策も一部で取り入れられましたが、アクセス局同士のFM電波がお互いに潰しあってしまうことは、Tone周波数では回避できません。その結果、レピータのアンテナ設備を制限することにより、小ゾーン化するなどの方策も併せて施行されました。

本来、アクセスポイントを小ゾーン化するということは、アクセスポイントを有線回線等でリンクし、無線でアクセスしてくる端末側の電力制限等も網側から効率よく実施しなければ意味がないのですが、そこまではアマチュア無線ではコントロールできません。

しかも、小ゾーン化したレピータが林立することになりましたが、時代とともにアマチュア無線が廃れ、一定のカバレッジ内に交信相手がどれだけ存在するかという人口密度が想像を超えるほど疎となった結果、FMレピータ局の中には廃局してしまったものも少なくなく、かろうじて現在も維持されているレピータ局も誰も利用者が居なくて閑古鳥が鳴いている状態になっているところばかりなのが現状です。

携帯電話の発達に伴い、お手軽な設備で楽しめるはずのV/UHF帯アマチュア無線人口が極端に減少した上に、交信できる範囲に人がいない、というのが大きな理由になって、V/UHF帯アマチュア無線の衰退に拍車がかかっていると感じています。しかし、それを助けてくれるはずの中継システムが上述のように、人口が密だった時代の要請で小ゾーン化したまま放置されてしまっています。

そこで考えられるのは、レピータ間をリンクして仮想的に大ゾーン化する方策です。そのやり方には、インターネットを使ったバックホールというのもあると思います。これを研究して行こうというグループがもっと出て来ても良いと思っていますが、私が今興味を感じているのは、インターネット・バックホールは用いず、無線だけで多段中継することによるカバレッジの拡大です。なぜならば、インターネットが利用できるなら、スマートフォンでZelloなどのアプリケーションを使って通話すればよく、アマチュア無線の出番はないからです。何でアマチュア無線でやる必要があるのか、という問いへ誰も応えられないと思うのです。日本のアマチュア無線で導入されたデジタル音声方式のD-STARやC4FMによるWIRES-Xなどが、アマチュア無線業界ではない一般の方々から見た時、携帯電話網とスマートフォンの組み合わせに比べて、何の優位性も魅力もないという不都合な真実に、これまで日本のアマチュア無線家たちは見て見ぬふりをしてきましたが、もう限界でしょう。このままでは、V/UHF帯のアマチュア無線は死に絶えます。

ところがここへ来て、面白い技術が日本のアマチュア無線でも合法利用可能になりました。それは、欧州を中心に業務用で広く使われているTDMA(時分割多重)技術を用いたDMR方式のデジタル音声無線システムです。このDMRにはSFR(単一周波数中継)という機能が搭載されています。この機能を用いることで、デジタル音声のリアルタイム中継が、従来のレピータのようなアップリンクとダウンリンクの2つの周波数を用いなくて実現できるのです。これは中継専用無線機が不要、デュープレクサ―が不要など、現在のFMレピータのようなコストをかけることなく、普通のモービル機の価格で中継装置が設置できるという魅力があります。(2波使わなくてよいというのも、小ゾーン中継局を多数設置する際には周波数が倍になるという利点はありそうです。)さらに中継局同士を多段中継することも可能となることから、さらなるエリア拡大もインターネットの力を借りることなく可能となります。

DMRの単一周波数中継リレー(SFR)は、通信する2局間が中継リレーを必要としなければ、通信している局同士も気付かず、直接波通信も同時進行できるので、万が一災害などで中継システムが破壊されても、電波が届く限り、特にユーザーが何か設定を変えずとも、通信できるというのも非常時などには良い機能になりそうです。(米国911の時に、現地の消防士たちが中継システムが機能しないために相互に通信できなくなって往生したといいます。)

インターネットを使わずに、どうやってV/UHF帯無線のカバレッジを広げるか、という課題に挑戦するのが楽しそうだ、と感じているわけです。というわけで、まずは富士山南麓標高1,000mの十里木高原別荘地にある私の別荘に、このSFR中継局JJ2YZMを開設し、各種伝搬実験を開始しました。

2024年1月15日月曜日

アマチュア無線資格制度と諸外国との相互協定の関係など

 5年前にFacebookで投稿したものを記録として残しておくために、こちらに再録しておく。

米国FCCアマチュア無線免許は、ボランティア試験官によって、資格試験が実施される。日本のアマチュア無線制度と異なり、米国の3つの資格(テクニシャン級、ゼネラル級、エキストラ級)をひとつずつ受験・合格してゆく必要がある。日本では、その気になれば4級も3級も2級もすっ飛ばして1級から受験できるのとは大きく異なる。なお、半日程度のボランティア試験において、これら3つの級を一気に受験・合格することも可能だ。その場合でも、受験料金は1回分のUS$15で済んでしまう。日本の国家試験が天下り団体に、4級4950円、3級5200円、2級7462円、1級8962円とボッタクラレルのとはだいぶ異なる。しかも、このボランティア試験や試験官は、国籍も開催国も問わない。日本でも、日本人ボランティア試験官により、日本各地で試験が実施されている。

日本人が、日本のボランティア試験で米国のアマチュア無線資格を取得するケースは、現在はひところに比べると、それほど多くは無く、一時のブームは落ち着いた感はある。ただ、資格取得者に注意してもらいたいのは、その米国免許をベースに欧州CEPT加盟国や、あるいは南北アメリカ大陸CITEL(Inter-American Telecommunication Commission)加盟国なら、相互運用協定のもとで自由にアマチュア無線運用ができると勘違いしてはダメだ、ということである。米国は、これら海外との相互運用協定が有効なのは、米国市民権を有する有資格者だけだとPublic Noticeで規定しているからだ。2016年9月16日付けでアップデートされたDA 16-1048 は次のURLで読める。
http://transition.fcc.gov/.../2016/db0916/DA-16-1048A1.pdf
南北アメリカ大陸CITEL加盟国間の相互運用協定IARPについては、次のURLを参照のこと。
http://www.arrl.org/iarp

これに対して、たとえば欧州CEPT側は、国籍にこだわったルールは明文化されておらず、国によっては米国側の意向を尊重して、米国市民権がなければダメと言ってくるケースもあれば、CEPT側は気にしないと言ってくるケースもある。ただ、DXCCのことを考えたりすると、米国側の意向を無視するのは、たとえCEPT側が気にしないと言ってきたケースでも手放しでは喜べないかもしれない。

欧州CEPT側の相互運用協定には、短期滞在者向けに事前手続き等不要でF/JQ2GYUのようなスタイルで90日以内の運用を認めるT/R 61-01と、長期滞在者向けに加盟国のアマチュア無線資格を自国の資格に読み替えて無線局開設を認めるT/R 61-02のふたつがある。前者が、いわばアマチュア無線「局」の相互運用を認める協定で、後者がアマチュア無線「従事者資格」の相互認証をする協定だ、と考えると理解しやすいかもしれない。

面白いのは、米国はCEPTでも前者の短期滞在向けT/R 61-01にのみ加盟しており、日本は1アマのみが対象だが長期滞在向けT/R 61-02にのみ加盟していることだ。日米間の相互運用協定が、ちょうどこの関係を物語っていて面白い。(日本のアマチュアが米国領内で運用する場合は、一切の事前手続きなしに、W6/JE1PGS形式で運用できるが、米国のアマチュアが日本で運用する場合は、私達と同じように開局申請をして日本のコールサインを取得しなければならない。)

こうした国際間のアマチュア無線相互運用協定には、意外と日本では知られていないことが結構あることに気付く。海外旅行先でアマチュア無線を楽しもうという方は、事前にかなり詳細に調査して行なうようにしたいものだ。たとえば、フランスではパリ市内ではアマチュア無線の運用に制限がある地域があるとか、英国でもロンドン中心部で制限があるなど、そうした各国事情も充分に注意したい。

相互運用協定の話で、近年新しい話は、インターネット等を介して遠隔地の無線局を操作するリモート運用のスタイルである。たとえば日本から米国内に設置された無線局をリモートで運用する際に、日本のアマチュア無線局しか有さない運用者は、日米間の相互運用協定に基づくW6/JE1PGSスタイルで運用できるかというと、実はダメなのである。米国領内にある無線局を、米国外からリモート運用するのには、米国免許を有する必要がある、というルールになっているのだ。これは、米国QST誌2015年4月号のK1ZZからのアナウンスなどが参考になる。
http://www.arrl.org/files/file/Contests-Remote-Station-Operation/QST%20April%202015%20-%20Remote%20Operating.pdf

このリモート運用のルールは、欧州CEPT側も同様の考え方だとのこと。相互運用協定は、その国を「VISIT(訪問)」した人に対する協定であり、リモート運用は「VISIT(訪問)」していないから、適用されない、という見解だそうだ。

ちなみに、米国と欧州CEPT間の相互協定T/R 61-01では、米国側の資格は旧アドバンスト級と現行のエキストラ級のみが対象となっている。ゼネラル級はノビス扱いで、CEPTノビス級として認めてやってもよいですよ、というリコメンデーションにとどまっている。なお、欧州CEPT加盟国でCEPTノビス級の制度を有する国は、必ずしも多くなく、しかもV/UHF帯のみとしているケースがほとんどだ。たとえば英国の初級クラスであるファウンデーション級にHF帯を認めているが、そもそも英国の初級(ファウンデーション)と中級(インターミディエイト)は、いずれもCEPTノビス級との互換性を持っていない。

日本と欧州CEPTとの相互運用協定で、割と最後までもめていたのが、日本の2アマの扱いだったそうだ。日本側は2アマも認めてほしいと考えており、欧州CEPT側もその国家試験問題の内容まで精査して、ほぼほぼ問題ないと考える委員も少なくなかったそうだが、日米相互運用協定で、米国ゼネラル級と日本の2アマが相互に認定されていることがネックになり、まずはここで議論して時間をかけるより、とにかく問題のない1アマだけで先に進もう、となったそうだ。

なお、その後、日本の2アマをどういう扱いにするかの議論は、まったく始まっていない。まぁ、1アマがこれだけ容易になったのだから、これ以上の労力をかけてもらうために嘆願するモティベーションは、日本側にもないのかもしれない。私自身、欧州CEPTとの相互運用協定に2アマを入れてもらう要求をする前に、短期滞在者向けのT/R 61-01に日本が加盟するために、日本のアマチュア無線制度の規制緩和に知恵を絞るのが先決だと考えている。