2024年1月16日火曜日
2024年1月15日月曜日
アマチュア無線資格制度と諸外国との相互協定の関係など
5年前にFacebookで投稿したものを記録として残しておくために、こちらに再録しておく。
米国FCCアマチュア無線免許は、ボランティア試験官によって、資格試験が実施される。日本のアマチュア無線制度と異なり、米国の3つの資格(テクニシャン級、ゼネラル級、エキストラ級)をひとつずつ受験・合格してゆく必要がある。日本では、その気になれば4級も3級も2級もすっ飛ばして1級から受験できるのとは大きく異なる。なお、半日程度のボランティア試験において、これら3つの級を一気に受験・合格することも可能だ。その場合でも、受験料金は1回分のUS$15で済んでしまう。日本の国家試験が天下り団体に、4級4950円、3級5200円、2級7462円、1級8962円とボッタクラレルのとはだいぶ異なる。しかも、このボランティア試験や試験官は、国籍も開催国も問わない。日本でも、日本人ボランティア試験官により、日本各地で試験が実施されている。
日本人が、日本のボランティア試験で米国のアマチュア無線資格を取得するケースは、現在はひところに比べると、それほど多くは無く、一時のブームは落ち着いた感はある。ただ、資格取得者に注意してもらいたいのは、その米国免許をベースに欧州CEPT加盟国や、あるいは南北アメリカ大陸CITEL(Inter-American Telecommunication Commission)加盟国なら、相互運用協定のもとで自由にアマチュア無線運用ができると勘違いしてはダメだ、ということである。米国は、これら海外との相互運用協定が有効なのは、米国市民権を有する有資格者だけだとPublic Noticeで規定しているからだ。2016年9月16日付けでアップデートされたDA 16-1048 は次のURLで読める。
http://transition.fcc.gov/.../2016/db0916/DA-16-1048A1.pdf
南北アメリカ大陸CITEL加盟国間の相互運用協定IARPについては、次のURLを参照のこと。
http://www.arrl.org/iarp
これに対して、たとえば欧州CEPT側は、国籍にこだわったルールは明文化されておらず、国によっては米国側の意向を尊重して、米国市民権がなければダメと言ってくるケースもあれば、CEPT側は気にしないと言ってくるケースもある。ただ、DXCCのことを考えたりすると、米国側の意向を無視するのは、たとえCEPT側が気にしないと言ってきたケースでも手放しでは喜べないかもしれない。
欧州CEPT側の相互運用協定には、短期滞在者向けに事前手続き等不要でF/JQ2GYUのようなスタイルで90日以内の運用を認めるT/R 61-01と、長期滞在者向けに加盟国のアマチュア無線資格を自国の資格に読み替えて無線局開設を認めるT/R 61-02のふたつがある。前者が、いわばアマチュア無線「局」の相互運用を認める協定で、後者がアマチュア無線「従事者資格」の相互認証をする協定だ、と考えると理解しやすいかもしれない。
面白いのは、米国はCEPTでも前者の短期滞在向けT/R 61-01にのみ加盟しており、日本は1アマのみが対象だが長期滞在向けT/R 61-02にのみ加盟していることだ。日米間の相互運用協定が、ちょうどこの関係を物語っていて面白い。(日本のアマチュアが米国領内で運用する場合は、一切の事前手続きなしに、W6/JE1PGS形式で運用できるが、米国のアマチュアが日本で運用する場合は、私達と同じように開局申請をして日本のコールサインを取得しなければならない。)
こうした国際間のアマチュア無線相互運用協定には、意外と日本では知られていないことが結構あることに気付く。海外旅行先でアマチュア無線を楽しもうという方は、事前にかなり詳細に調査して行なうようにしたいものだ。たとえば、フランスではパリ市内ではアマチュア無線の運用に制限がある地域があるとか、英国でもロンドン中心部で制限があるなど、そうした各国事情も充分に注意したい。
相互運用協定の話で、近年新しい話は、インターネット等を介して遠隔地の無線局を操作するリモート運用のスタイルである。たとえば日本から米国内に設置された無線局をリモートで運用する際に、日本のアマチュア無線局しか有さない運用者は、日米間の相互運用協定に基づくW6/JE1PGSスタイルで運用できるかというと、実はダメなのである。米国領内にある無線局を、米国外からリモート運用するのには、米国免許を有する必要がある、というルールになっているのだ。これは、米国QST誌2015年4月号のK1ZZからのアナウンスなどが参考になる。
http://www.arrl.org/files/file/Contests-Remote-Station-Operation/QST%20April%202015%20-%20Remote%20Operating.pdf
このリモート運用のルールは、欧州CEPT側も同様の考え方だとのこと。相互運用協定は、その国を「VISIT(訪問)」した人に対する協定であり、リモート運用は「VISIT(訪問)」していないから、適用されない、という見解だそうだ。
ちなみに、米国と欧州CEPT間の相互協定T/R 61-01では、米国側の資格は旧アドバンスト級と現行のエキストラ級のみが対象となっている。ゼネラル級はノビス扱いで、CEPTノビス級として認めてやってもよいですよ、というリコメンデーションにとどまっている。なお、欧州CEPT加盟国でCEPTノビス級の制度を有する国は、必ずしも多くなく、しかもV/UHF帯のみとしているケースがほとんどだ。たとえば英国の初級クラスであるファウンデーション級にHF帯を認めているが、そもそも英国の初級(ファウンデーション)と中級(インターミディエイト)は、いずれもCEPTノビス級との互換性を持っていない。
日本と欧州CEPTとの相互運用協定で、割と最後までもめていたのが、日本の2アマの扱いだったそうだ。日本側は2アマも認めてほしいと考えており、欧州CEPT側もその国家試験問題の内容まで精査して、ほぼほぼ問題ないと考える委員も少なくなかったそうだが、日米相互運用協定で、米国ゼネラル級と日本の2アマが相互に認定されていることがネックになり、まずはここで議論して時間をかけるより、とにかく問題のない1アマだけで先に進もう、となったそうだ。
なお、その後、日本の2アマをどういう扱いにするかの議論は、まったく始まっていない。まぁ、1アマがこれだけ容易になったのだから、これ以上の労力をかけてもらうために嘆願するモティベーションは、日本側にもないのかもしれない。私自身、欧州CEPTとの相互運用協定に2アマを入れてもらう要求をする前に、短期滞在者向けのT/R 61-01に日本が加盟するために、日本のアマチュア無線制度の規制緩和に知恵を絞るのが先決だと考えている。