2019年8月25日日曜日

アマチュア無線連盟の役割・存在意義の変化

アマチュア無線連盟に求められる一番大事な役割は、
政策渉外(ガバメントアフェアーズ)にあると思う。


アマチュア無線連盟の役割や存在意義を考えるとき、アマチュア無線連盟というものが会員にサービスを提供するエンティティと考えるか、会員がアマチュア無線連盟、さらにはアマチュア無線そのものに対して何が出来るかと考えるかによって、答は変わってくると思う。

これまで多くのアマチュア無線連盟会員にとって、連盟の存在は会員に対してサービスを提供する存在であったと思う。日本では特に、この考えから今でもまったく脱却できていないように見える。

そうなると、会員に対して提供するサービスの中でも一番わかりやすいものが、QSLビューローだ。特に日本のJARLは、世界各国のアマチュア無線連盟でもなかなか例を見ない、国内同士のQSLカード交換にまでビューローサービスが提供されてきた。そのため、会員にとってはなおさら、このサービスの存在感が強いと言えよう。

しかしながら、世界的な動向を観察してみると、まず国内交信同士のQSLビューローは、いずれの国の連盟にもほぼ存在しないようだ(ドイツと日本くらいでは?オーストリアにもあるらしい?)。QSLビューローというものは、あくまでも国際間のQSLカード交換のために世界の連盟が協調して、これまで行なわれてきたサービスなのだ。しかも、このサービスの維持が、そろそろ限界に来つつあることから、欧州などを中心にQSLビューローの改革や撤退などの議論がスタートしたところである。

特に国際間のQSLカード交換は、OQRS(オンラインQSL請求システム)や、米国ARRLによる電子QSLシステムLoTW、あるいはClub LogによるIOTAアワードのマッチング機能など、ビューローサービスの利用よりも電子的なものへと移行しつつある。

そのため、アマチュア無線連盟の存在意義の大半をQSLビューローサービスが占めていたとすると、もはやその存在意義が足元から揺らいでしまうように思う。

このことにいち早く気付いた先進諸国のアマチュア無線連盟は、次の100年を見据えた価値提供の模索を開始している。それは、若者の育成支援であったり、会員に対して若者のメンターになるための教育であったり、地域に根差したアマチュア無線クラブ等に対して、地域社会にアマチュア無線の存在意義を広めるためには、どのように新聞やローカルテレビ局など地元メディアと接したらよいかなどといったマーケティング的手法の伝授をする研修会を開催するなど、色々とプロフェッショナリティの高い支援を提供し始めている。

すなわち、日本を除く先進諸国のアマチュア無線各連盟では、「アマチュア無線の外の世界」に対してアマチュア無線をアピールし、若者を育成して次の100年のアマチュア無線を活性化させる、という活動を連盟が行なおうという動きが始まっているのである。

日本のアマチュア無線連盟JARLがこのような脱皮を図るためには、会員は今度はサービスを享受する立場から、自分が自らアマチュア無線のために何が出来るのかを自問する立場にならなくてはいけないのだろう。JARLからサービスの提供を受けるために会員になるのではなく、個人個人がアマチュア無線のために活躍するためにJARLに入って活動する、という視点に、JARLや会員自身が脱却できるかどうかに、日本のアマチュア無線の未来がかかっている。

2019年3月9日土曜日

アマチュア無線再考

私にとってのアマチュア無線の魅力、そしてまさにこの趣味の存在意義でもあると感じるのは、社会に変革をもたらすようなイノベーションの「プロトタイプを実験できる場」であることだ。この30年間に私自身が関与してきたアマチュア無線の活動を振り返ってみると、以下のようなことにワクワクしていたことに気付く。

(1) 携帯電話がなかった時代に、ハンディトランシーバとレピータを使い、モバイル通話が身近なものになった時、何が私達の生活を変えるのか、身をもって体験。(1980年代前半)
(2) スマホどころか iモードすらなかった時代に、パケット無線による移動体通信の実験を通し、モバイルワイヤレス通信とデジタルネットワークが融合することで、何が私達の生活を変えるのか、身をもって体験。これには当時、NHKの興味を惹き、夜のニュースで取り上げられえたほか、省庁関係の外郭研究団体などから、まとまった額の研究費を、一介のアマチュア無線研究グループが得ることとなった。(1980年代後半)
(3) インターネットが一般に開放される前に、パケット無線でTCP/IP over AX.25技術の開発と、そのユーザーコミュニティ作りに携わり、一般人がインターネットを使えるようになったら、何が起きるのかを身を持って体験。これは当時の通産省からも注目され、学識経験者や業界をリードする研究者の皆さんで構成された勉強会のメンバーとして招聘された。(1990年代前半)
(4) プロの世界でもやっと黎明期にあったVoIP技術とプロトタイプ製品を利用して、地元のレピータの交信をインターネットを介して米国に居住する、そのレピータの管理団体の元メンバーの方に流す実験を実施。当時の法的な制限もあり、あくまでも一方向で垂れ流しただけとしましたが、技術的には双方向も可能なシステムであった。(1990年代中頃)

いま、私の頭の中にあるテーマのひとつは、FT8のような高い符号化利得を持つ電波形式を利活用して、小電力な無線設備でフィールドからIoT的なデータを収集、それをビッグデータ解析するような実験を全国、あるいは全世界規模で行なえたら面白いのではないだろうか、というもの。これからも、そうしたプロトタイプを背負う気概と気合を持ち続けたいと思いつつ、面白いアイディアを持つ若い方の発掘と支援にも取り組みたい。

携帯電話で出来ること、SNSで出来ること、しかもそれらより低性能なもの、それがアマチュア無線です、というのは、もうやめたいと思うのだ。

2019年1月15日火曜日

国際間の相互運用協定の注意点


米国FCCアマチュア無線免許は、ボランティア試験官によって、資格試験が実施される。日本のアマチュア無線制度と異なり、米国の3つの資格(テクニシャン級、ゼネラル級、エキストラ級)をひとつずつ受験・合格してゆく必要がある。日本では、その気になれば4級も3級も2級もすっ飛ばして1級から受験できるのとは大きく異なる。

なお、半日程度のボランティア試験において、これら3つの級を一気に受験・合格することも可能だ。その場合でも、受験料金は1回分のUS$15で済んでしまう。日本の国家試験が天下り団体に、44950円、35200円、27462円、18962円とボッタクラレルのとはだいぶ異なる。

しかも、このボランティア試験や試験官は、国籍も開催国も問わない。日本でも、日本人ボランティア試験官により、日本各地で試験が実施されている。

ただ、資格取得者に注意してもらいたいのは、その米国免許をベースに欧州CEPT加盟国や、あるいは南北アメリカ大陸CITELInter-American Telecommunication Commission)加盟国なら、相互運用協定のもとで自由にアマチュア無線運用ができると勘違いしてはダメだ、ということである。

米国は、これら海外との相互運用協定が有効なのは、米国市民権を有する有資格者だけだとPublic Noticeで規定しているからだ。2016916日付けでアップデートされたDA 16-1048 は次のURLよりダウンロード可能だ

南北アメリカ大陸CITEL加盟国間の相互運用協定IARPについては、次のURLを参照のこと。
http://www.arrl.org/iarp

次のURLにある、ARRLが発行した米国免許での海外運用になする資料も有用だ。
http://www.arrl.org/files/file/Regulatory/October%202017%20International%20Operating.pdf

これに対して、たとえば欧州CEPT側は、国籍にこだわったルールは明文化されておらず、国によって米国側の意向を尊重して、米国市民権がなければダメと言ってくるケースもあれば、CEPT側は気にしないと言ってくるケースもある。ただ、DXCCのことを考えたりすると、米国側の意向を無視するのは、たとえCEPT側が気にしないと言ってきたケースでも手放しでは喜べないかもしれない。

欧州CEPT側の相互運用協定には、短期滞在者向けに事前手続き等不要でF/JQ2GYUのようなスタイルで90日以内の運用を認めるT/R 61-01と、長期滞在者向けに加盟国のアマチュア無線資格を自国の資格に読み替えて無線局開設を認めるT/R 61-02のふたつがある。

前者が、いわばアマチュア無線「局」の相互運用を認める協定で、後者がアマチュア無線「従事者資格」の相互承認をする協定だ、と考えると理解しやすいかもしれない。

ちなみに、米国はCEPTでも前者の短期滞在向けT/R 61-01にのみ加盟しており、日本は1アマのみが対象だが長期滞在向けT/R 61-02にのみ加盟している。

日米間の相互運用協定が、ちょうどこの関係を物語っていて面白い。すなわち、日本のアマチュアが米国領内で運用する場合は、一切の事前手続きなしに、W6/JQ2GYU形式で運用できるが、米国のアマチュアが日本で運用する場合は、私達と同じように開局申請をして日本のコールサインを取得しなければならないのも、CEPTとの関係から眺めると、なるほどと理解できるのだ。

相互運用協定の話で、近年新しい話として、インターネット等を介して遠隔地の無線局を操作するリモート運用のスタイルに適用されるのか否か、という議論がある。

たとえば日本から米国内に設置された無線局をリモートで運用する際に、日本のアマチュア無線局しか有さない運用者は、日米間の相互運用協定に基づくW6/JQ2GYUスタイルで運用できるかというと、実はダメなのである。米国領内にある無線局を、米国外からリモート運用するのには、米国免許を有する必要がある、というルールになっているのだ。これは、米国QST20154月号のK1ZZからのアナウンスなどが参考になる。

このリモート運用のルールは、欧州CEPT側も同様の考え方だとのことだ。相互運用協定は、その国を「VISIT(訪問)」した人に対する協定であり、リモート運用は「VISIT(訪問)」していないから、適用されない、という見解だという。

以上のように、国際間のアマチュア無線相互運用協定には、意外と日本では知られていないことが結構あることに気付く。海外旅行先でアマチュア無線を楽しもうという方は、事前にかなり詳細に調査して行なうようにしたいものだ。

次のURLも併せてご覧いただければ幸いだ。

欧州CEPTと日本の相互運用協定の解説

日本の総務省が自国民に、海外資格を根拠に日本の無線局免許を与える理由